※ 本記事は、2025年4月23日に開催された『【Kyushu Global Leap】九州から世界へ!スタートアップ/中小企業のグローバル戦略』の【後編】です。前編はこちらからご覧いただけます。
モデレーター:冒頭で述べたように、福岡は海外進出で12位に位置していますが、他の九州の5県はワースト10位に入るという現状があります。九州には地理的な優位性やサポート体制、そして一部地域の人口増加という強みがあるにも関わらず、なかなかグローバル展開が進んでいないというのが現状です。そこで、まずは片岡さんにお聞きしたいのですが、九州のグローバル展開の現状について、どのようにお考えでしょうか?
片岡:まず、九州の企業の海外進出が少ないという点ですが、一方で、輸出はかなり多いと思います。例えば、福岡市においては、水資源が不足しているため工場の発展が難しく、工場の数が限られています。一般的に海外進出というと、工場や投資が関わることが多いため、福岡は他の地域に比べて進出が少ない傾向があります。
一方で、輸出は着実に進んでおり、九州の企業はその面では活発に動いていると思います。ただ、グローバル展開の現状について言うと、福岡や九州にはいくつか課題があると感じています。特に大きいのは人材の問題です。例えば、九州に留学してきた外国人学生が実際に働くとなると、東京や大阪を選ぶことが多いです。また、CXO人材、つまりCEOやCOOといった経営層の人材も、東京や大阪に多く集中しています。
グローバル展開を進めていくには、こういった人材をどのように活用するかがカギになります。例えば、留学生の力を借りるとか、経営経験のある人たちがグローバル市場を視野に入れて活動を始めるような形で動きが出てくると思いますが、そういった人材はどうしても東京や他の大都市に集中してしまっています。このため、九州ではその数が少ないと感じています。
ただ、スタートアップに関しては、九州は非常に勢いがあります。福岡や北九州、最近では熊本や長崎にもスタートアップの種が増えてきていると感じます。大手企業や中堅企業のCXO人材が足りないという課題はありますが、スタートアップの活気をグローバル展開に結びつけていければ、九州の可能性はもっと広がると私は思っています。
モデレーター:ありがとうございます。なるほど、確かにグローバル人材が東京や大阪に流れてしまう現状や、CXO人材の不足といった課題は大きいですよね。グローバル人材という観点から、次は栗山さんに、APUでのグローバル人材の育成や、卒業生がどのような進路を歩んでいるのかといった点について、お話を伺えればと思います。
栗山:立命館アジア太平洋大学(APU)には現在、約3千人留学生が在籍しており、学生全体の約半数を占めています。1年生のときには国内学生と一緒に寮で生活を共にしますので、日本のカルチャーや社会文化に触れながら、4年間を別府市で過ごすことになります。そのため、多くの留学生は日本に対して親しみを持っていると感じています。
ただし、卒業後の進路を見ると、留学生のうち約4割が日本で就職しますが、その中でも6割以上は関東、つまり首都圏に向かいます。九州に残るのは2割程度で、多くは福岡での就職になります。学生に話を聞くと「地元に住む、働く場所がない」「就職する会社がない」と言われますが、実際には企業はあるんです。ただ、「どんなカルチャーを持った企業なのか」「どんな事業をしているのか」について、学生の認識との間にギャップがあるように感じます。
もう一つの課題はキャリアの捉え方です。APUの学生にアンケートを取ると、3〜4年という短いスパンでキャリアチェンジを考える傾向が見られます。再就職してもそこでキャリアを終えたら次のキャリアに進むという風になるので、受け入れる企業側もそれを前提にどう人事戦略を打っていくか、この考え方の違いが学生側と企業側とのギャップがあるところだと思います。
モデレーター:では続いて、Eletusの園田さんにお聞きしたいと思います。現在AIを活用したサービスを基に、グローバル展開に挑戦されていると伺いました。どのような国で、どんなサービスを展開されているのか、またその中で苦労されたポイントなどがあれば、ぜひ教えてください。
園田:現在、私たちはAIを活用した教育サービスを展開しており、特に日本語学校で導入いただいています。グローバル展開を見据えてはいるのですが、スタートアップで現在メンバーが4人ということもあり、どうしてもリソースの制約があります。たとえば、英語版や中国語版のUIを開発するには時間もコストもかかるため、そこが大きな課題です。
その中で、まずは「日本語を学ぶ人」を対象にしてみようと考えました。というのも、日本語学習者であれば、日本人が開発したプロダクトとの相性が良いですし、AIの出力が英語であっても理解してもらえる可能性が高いと考えたからです。
さらに、日本語を学ぶ人が増えることは、言語や文化の継承にもつながると思っています。私たちのプロダクトを通じて、そうした価値にも貢献できるのではないかという思いもあります。
ただ、やはり苦戦する点も多いですね。たとえば、文化や言語の違いによる反応の差です。「えっ、そこが驚かれるの?」とか、「これは逆に受け入れられないんだ」とか、そういった発見が国によって本当に異なります。
UIの好みひとつを取っても、東アジアでは情報量の多いデザインが好まれる一方で、アメリカなどではシンプルなUIが好まれる傾向があります。国ごとの好みやニーズを把握し、それに合わせて最適化するのは、思っていた以上に難しいと感じています。
モデレーター:やはり国によって文化や言語が大きく異なる中で、どうローカライズしていくかはグローバル展開における大きな課題ですよね。園田さんは現在、フィリピンの日本語学校にAIサービスを導入されているとおっしゃっていましたが、なぜフィリピンを最初の展開先として選ばれたのでしょうか?
園田:たまたま出会った方がフィリピンで日本語学校を運営されていたんです。また、福岡市との協力でアメリカにもアプローチをしているところです。
モデレーター:なるほど。まずはフィリピンからスタートし、今後はさらに他国への展開も視野に入れているということですね。
園田:はい、そうですね。スケーラブルに展開できるのがソフトウェアの強みだと思いますので。
モデーレーター:ありがとうございます。では、続いて、植木さんにお伺いしたいと思います。先ほど、事例として八女の「古賀製茶本舗」さん(※)のお話がありましたが、現在どのような事業でグローバル展開を目指されているのか、またその中で感じている課題・苦戦しているポイントについて、福岡銀行さんの目線から教えていただけますか?
※ パネルディスカッション前に実施された「各企業の取り組み紹介」において、株式会社福岡銀行様の地域企業のデジタル化支援事例として古賀製茶本舗様を紹介いただきましたが、本記事では割愛させていただいております。
植木:古賀製茶本舗さんのグローバル展開の取り組みは、私たちが関わった中でも非常に珍しい事例です。というのも、実際に中小企業の業務課題や社内改善に関する相談の中で「グローバル展開を考えている」というケースは、あまり多くないのが現実です。
古賀製茶本舗さんとの取り組みは、もともと基幹システムのリプレイスから始まりました。システムを担当していたベンダーが突然倒産し、相談を受けたのがきっかけでしたが、単に代替の業者をご紹介するのではなく、私たちは企業の根本的な課題やパーパス・ビジョンにまで踏み込んで支援するスタンスを取っています。
そこから、「5年後、10年後にこの会社がどうありたいか?」を一緒に描いていく中で、明確になってきたのが“海外への展開”でした。ちょうどコロナ禍の影響で、国内ではお茶の需要が低迷していた一方で、海外では日本茶の安全性や健康効果に対するニーズが高まっていたんです。特にティーバッグ形式のお茶は、現地の生活スタイルとも親和性が高く、需要が伸びていました。
とはいえ、やはり言語や文化の壁は大きなハードルです。そこで、お茶パックにQRコードを添付したりYouTube動画を作成したり、八女茶の文化を体験として伝える工夫を行いました。単なる「輸出」ではなく、「日本の茶文化を届ける」という視点で取り組まれているのが、古賀製茶本舗さんの大きな特徴です。
また、創業200年を超える企業として、伝統を大切にしながらも、DXの力で体験価値そのものを再構築していく——そういったビジョンを共有しながら、私たちも全体設計の観点から伴走支援をさせていただいています。
モデレーター:なるほど、単なるDXではなく、まずパーパスやビジョンを明確にして「本当にやりたいこと」「誰を幸せにしたいのか」を突き詰めていった結果、DXが手段としてあるということですね。
植木さん:まさにその通りです。
モデレーター:これまでのお話の中で、グローバル展開のきっかけや直面する課題について様々な視点が共有されました。では、それらの課題を実際にどのように解決していくのかーー。ご参加頂いた皆様の事前アンケートをもとに、ここでは4つのテーマが上がってきたとお聞きしています。
このうち「グローバル人材の採用」については先ほどAPUさんよりご紹介がありましたので、ここでは「コミュニケーション」および「社内体制整備」について、インド人社員との協働体制を持つJIITAKの小林さんに伺っていきたいと思います。小林さん、御社では日々どのように異文化間のコミュニケーションや組織づくりに取り組まれているのでしょうか?
小林:みなさんが定量的でロジカルな視点からお話をされていたので、私は少し定性的な観点からお話をさせていただきます。まず、何よりも大事にしているのは「諦めないこと」です。
弊社にはインド人のメンバーも在籍しており、日々やり取りを重ねているのですが、当たり前の常識が根本的に異なります。私の日本人マインドで話すと、日本人同士ならスムーズに伝わるような話も、相手には違う価値観やロジックで捉えられてしまい、予想外のところで議論がストップします。
そこで大切にしているのが、「伝える努力」と「抽象度を落とすこと」です。言語が異なるからこそ、曖昧な表現を避け、徹底的に言語化して具体的に伝えるようにしています。また、これは経営陣だけでなく、メンバー全員が日々意識している点でもあります。社内のコミュニケーションは基本的に英語で行っており、英語が苦手な新入社員も一生懸命会話に参加しています。
さらに、文化の違いからくる理解のズレを防ぐために、私たちは「Why(なぜこれをやるのか)」を徹底的に深掘りしています。日本発のプロダクトやビジネスモデルは、インドには存在しないものもあり、その背景や目的を説明するのは非常に難しいです。しかし、そこを曖昧にしたまま「What(何をやるか)」の話だけで進めてしまうと、最終的にアウトプットが期待したものと全く異なってしまうことがあります。最終的には「グローバル展開が難しかった」「外国人と一緒に働くことが難しい」と諦めてしまうと思うんですけれど、そこを「Why(なぜこれをやるのか)」から深掘ります。
弊社の場合だと、機能一つひとつに対しても「ユーザーストーリー」を作成し、その機能がなぜ必要なのか、誰のためのものなのかを明確にしています。これはどんな事業でもグローバル人材を採用してコミュニケーションを取る上では、重要な取り組みだと感じています。
モデレーター:社内のコミュニケーションを英語に統一したり、文化を違いに理解し合ったりする取り組みがあったかと思いますが、JIITAKさんのDXの観点から、社内体制をどのように構築すれば良いのか、具体的なアプローチがあれば教えていただますか?
小林:弊社もまだ成長段階にあり、現在7期目に突入するところですが、体制が完全に整っているわけではありません。グローバル展開を進める中で、拠点が異なり、実際に会ったことがないメンバーとSlackやZoomでコミュニケーションを取ることは、非常に難しいです。弊社ではバーチャルオフィスを導入しており、遠隔での会話ができる環境を整えていますが、根本的なコミュニケーションの難しさがあるため、他社以上にしっかりとしたコミュニケーションのワークフローを固めています。
具体的には、困った時に誰に話をすれば良いのか、誰に確認を取るべきなのかが曖昧になりがちです。インド側はこの人に伝えたら良いとか、日本側にはこんな担当者がいるということを知らなかったなど、そこで揉めたりとコミュニケーションが分かりにくくなることがあります。そのため、状況に応じて誰に話をすべきかが分かるよう、1つ1つのワークフローや体制の明確化を徹底しています。しています。
そのため、弊社がグローバル展開を見据えた上でのDX・コンサルティングに入らせていただく際には、まずはワークフローの明確化を徹底し、その後にシステムに落とし込んでいくというところを重視して会話させていただいています。
モデレーター:日々のコミュニケーションからDXを手段として活用し、ミスコミュニケーションを防ぎ、より活性化させているということですね。ありがとうございます。
モデーレーター:本日、グローバル展開に関するさまざまなお話をいただきましたが、会場にお越しいたいている皆様には何かしたのヒントを持ち帰っていただけるようにしたいと考えています。そこで、5名の登壇者の皆様にお聞きしたいと思います。会場の皆様に向けて、「グローバル展開のために明日から実践できること」について、アドバイスやアイデアがあればお聞かせいただけますか?
園田:うちもグローバル展開に挑戦している段階なので、アドバイスというのは少しおこがましいですが、やって見て感じたことは、意外にも英語はどうにかなるということです。東京で英語でピッチ行ったり、韓国やオーストラリアの方々に興味を持っていただき、英語で話しかけられることもありますが、身振り手振りや動画を活用したり、今では翻訳ツールもあるので、意外とコミュニケーションは取れるものです。
ですので、言語の壁は皆さんが思っているほど高くはないと思います。ただ、文化の違いは大きいと感じており、例えば営業や商談の際、日本では商談後に稟議を通して上長の許可を取るなどのプロセスがありますが、アメリカの方々と話していると「それいいね!導入しよう!」と先に決めて、詳細の契約条件はどれで、受注はしたけどそこから長いということが結構あります。ここでビジネス慣習や文化を理解することが非常に重要だと感じています。
栗山:園田さんが言った通り、言語の問題ではなく、むしろカルチャーや組織文化がどれだけフィットするかが一番キーだと思っています。例えば、学生に対してレポートの締切を設定した際、日本人の感覚では1分1秒でも遅れちゃダメだと考えますが、多国籍は1週間くらいは交渉すれば大丈夫だろうみたいなことを普通に行ってきます。どちらが良い悪いの話ではなく、それを前提にして会社の仕組みやサービス提供をしていくことが重要だと思います。明日からできることとして、ぜひAPUを使い倒していただきたいと思います。APUには世界100カ国から学生が集まっていますので、手軽に多国籍多文化な環境を理解していただけると思います。ぜひ気軽に大学にお越しいただければと思います。
片岡:明日からできることということで、APUさんと同じくJETROも使い倒していただければと思います。JETROでは市場調査やネットワーキングの支援を提供しており、また、コストのかからないところからスタートすることがとても大切だと思います。さらに、もう一つ強調したいのは「偶然を大事にする」ということです。我々スタートアップやVCの方々とネットワーキングを行い、その中で感じたフィーリングや面白い感じた国・人との繋がりが、新たなビジネスチャンスを生むことがあります。積極的にコミュニティに入ることが第一歩で、その後は会った人や繋がった国・地域を深掘りしてみることで、自身の商品がフィットするかもしれないので、偶然を本気で考えて深掘ってみることは凄く大事なことだと思っています。
小林:私も「JIITAKを使い倒してください!」と言いたいところではありますが、アプリケーションやシステム開発は参入しづらいところもありますので、まずはJETROさんやAPUさんをしっかり活用していただきたいです。
先ほど片岡さんが仰った「偶然を楽しむ」という考え方にも非常に共感しています。どうしても怖さや信じられない気持ち、プライドが邪魔することがありますが、やはり一度信じてみることが重要です。海外の企業とのつながりを持ち、何かを始める際には、プロの方のサポートを受けながら信憑性を高めつつ、まずか自分から手を差し伸べてみることが大切だと思います。
植木:シンプルに「気づきの情報を大切にせよ」というのが私たちがコンサルティングの中で心がけていることです。プロダクト開発の際も、気づきから新しいアイデアが生まれます。DXもグローバル展開も手段にすぎません。目的と手段を混同することが時にありますが、その原点に立ち戻ることが大切だと思っています。気づきを得るためには、偶発性、セレンディピティも非常に重要です。企業として、いかに気づきの情報を収集するかがカギとなると思います。そのためにも、福岡銀行を使い倒してください。
モデレーター:ありがとうございます。今日は5名の登壇者に「サービス概要」や「グローバル展開」「DX」に向けての話をしていただきましたが、ぜひ皆様も本当に使い倒していただき、グローバル展開やDXに向けた一歩を踏み出していただければと思います。
また、今日お越しいただいた皆様は、グローバル展開に向けての第一歩を踏み出したと言えると思います。最後に、JIITAKが掲げる「Wings To Hope 希望に翼を」という思いを基に、皆様が明日からグローバル展開やDXに向けた一歩を踏み出していただければという思いを込めて、パネルディスカッションを終了とさせていただきます。
それでは、ご静聴いただき、ありがとうございました!
・グローバル展開がより身近に感じられた。
・皆さん物凄い熱量で九州からもグローバル展開の無限の可能性を感じた。
・言語のコミュニケーションより文化の理解が大事。イベントで会った人、経験、この偶然をもっと大事にしていきたいです。
・各機関の取り組みを知ることができたのが1番の収穫だった。一度に5機関の取り組みを知ることができる機会は、普段仕事をしているだけだとなかなかない。グローバルという共通のテーマはあったものの、IT・教育・地方銀行といった様々な観点からのアプローチが学びになった
以上、『【Kyushu Global Leap】九州から世界へ!スタートアップ/中小企業のグローバル戦略』イベントレポートをお届けしました。
登壇者の皆様からは、「言語以上に文化的背景の理解が重要であること」「偶然や出会いを大切にする姿勢」「まず一歩を踏み出してみること」「信じて関わってみる姿勢」「気づきの情報を大切にする」など、明日から実践できるリアルなヒントが数多く語られました。
グローバル展開における成功の鍵は、言語や特別な準備以上に、”今ここ”にある出会いや目の前の偶然にどう向き合うかにあるのかもしれません。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
JIITAKは、国内外問わず価値創造に挑戦する皆様を対象に、アイデアの創出から戦略設計、プロダクト開発・運用まで一気通貫でご支援しています。DXやプロダクト開発に関するご相談、アイデアのご相談、あるいは漠然としたお悩みの段階でも、お気軽にお問い合わせください!