現在、日本では人口減少に伴う労働人口減少が深刻な問題となっています。企業は、限られたリソースを有効活用し、従業員一人ひとりの生産性向上や企業の成長に向けた取り組みを行わないといけません。
ここで大切になるのが、「省人化」という考え方です。
今回は、省人化の概要や、メリット、取り組みにあたっての壁、「省力化」「少人化」との比較、実践方法や事例まで解説していきます。
「省人化」に興味がある人や、企業で業務効率にどのように取り組むべきかお悩み中の人に読んでいただきたい内容となっています。ぜひ最後までご覧ください!
省人化とは、機械やロボットなどの技術を活用し、人が行わなくてもできるタスクを任せることで人員を削減する考え方です。これにより、人間が本来行うべき重要な業務や、人間にしかできない業務に人員を割り当てることができます。
また、省人化は、単なる労働人口減少による人手不足の解消に役立つだけではありません。現在、熟練技術者など、専門的なスキルや経験によって成り立つ分野においても、後継者不足問題や労力の負担が問題となっています。ここに、ロボットやシステムの導入による自動化やデジタル化によるデータ活用といったデジタル技術を活用することで、本来人間が行っていた作業をデジタル技術が補い、限られたリソースを有効的に使うことが可能です。
このような人手不足の課題だけでなく、省人化によって生産性向上やコスト削減も見込め、企業の持続的な成長を目指すことができます。
ここまで解説した省人化の概要を聞くと、一見DXと似ているように感じる人がいるかもしれません。ここで2つの違いを整理しておきます。
・省人化
主に人的リソースを削減し、労働力不足に対処し効率向上することを目的としたアプローチ
・DX
ビジネスプロセスや人件費削減、新規・既存サービスをデジタル技術を使うことで、市場価値や競争力を高めていくことを目的としたアプローチ
これら2つは異なるアプローチ方法ですが、DXによる取り組みを進めていくことで、業務のデジタル化があわせて進み、結果として省人化を実現することが可能です。反対に、省人化のために導入したデジタル技術によって、必要な部署に必要な人員を確保した上で市場価値や競争力を高める方向へとビジネスを舵取りできれば、結果的にDXも実現したと言えます。つまり、省人化とDXは密接に関わりあった考え方です。
ちなみに、「省人化」という言葉は、徹底的な無駄の排除と効率的な生産を追求する「トヨタ生産方式(TPS)」の考え方で世の中に登場しました。
省人化とよく比較される概念として、「省力化」や「少人化」があります。これらも業務効率化についての概念です。以下で省人化も含めて、その違いをまとめていきます。
・省人化
省人化はデジタル技術や機械などを使用し、人が行っていたタスクを置き換え、効率性の向上とコスト削減を目指すアプローチです。例えば、ある作業に5人が取り組んでいるとして、効率化することで1人、2人と人員を削減するということに重点を置いています。
・省力化
省力化は人々の労力を減少させるためのアプローチであり、省人化のように人員を減らすことは目的としていません。例えば、あるワークフローにITツールやクラウドツールを導入をすることで、業務プロセスが効率化され、作業の負担が減ります。労働者の労力を最小限に抑えながら生産性を向上させることが重要です。人員の削減ではなく、作業の簡素化・業務の効率化を通して労働者の労力を最小限に抑えながら生産性を向上させることを目的としています。
・少人化
少人化は、生産量に応じて最少人数で取り組むアプローチです。生産性を落とすことなく、需要変動に柔軟に対応できるような生産ラインを構築することを目標とします。例えば、今日は5人分の作業、明日は3人分の作業を行うという場合、人員もそれぞれに適した5人体制と3人体制で取り組みます。つまり、1つの作業に対して定員を設けるのではなく、作業に必要なだけの人員で取り組むことを目的とします。
このように似ているような3つの言葉ですが、それぞれ異なる目的を持ったアプローチ方法になります。また、「省人化」と「小人化」については関連があり、まずは人員を削減する「省人化」を向上させることができると言われています。
改めて以下に省人化を行うメリットをまとめていきます。
・生産性の向上
機械やシステムの導入により、業務プロセスの効率化が可能であり、生産性が向上します。これにより、同じ業務量をスピーディーかつ効率的に処理できるようになります。
・人手不足の解消
日本では人口減少に伴い労働人口も減少しており、労働力の不足が懸念されています。省人化により、労働力の効率的な利用が可能になり、人手不足の緩和が期待されます。
・サービス品質の向上
機械やシステムによる自動化は、人為的ミスを最小限に抑えることができ、業務品質の標準化と安定化が実現し、「ムラ」のない一貫性のある高品質のサービスを提供できます。
・特定の人が持つスキルに依存しない
修行するのに長年の月日が必要な技術は、後継者が見つかりにくい、高齢化に伴い本人の負担が大きいという問題があります。しかし、これらの技術をシステムが担うことにより、特定の人の持つスキルに依存せず、誰でも高精度な作業を行うことができます。
前述したメリットと反対に、省人化に取り組むにあたって壁になってしまうこともあります。以下が主な例です。
・初期コストがかかる
機械やデジタルツールの導入には初期投資が必要で、高額になる可能性があります。あらかじめ、投資対効果を検討することが重要ですが、この分野に精通した知識を持つ人材の確保が重要です。
・DX人材の獲得・育成が必要
新たなテクノロジーやデジタルツールの導入には、専門的なスキルを持つDX人材が必要です。導入にあたっての知識だけでなく、システムのメンテナンスや復旧ができるDX人材は獲得や育成にコストと時間がかかることがあります。
省人化の実践方法はいくつかありますが、その中でもメインとなる点についてまとめていきます。
・業務プロセスの分析と評価
現在の業務プロセスを明確に可視化し、どの部分に無駄や改善の余地があるかを特定します。例えば、製造業の現場では、組み立て工程や検査工程を詳細に分析して、どこで人手が必要で時間がかかっているかを明らかにします。それによって無駄を削減し、作業工程の見直しや課題の洗い出しを行い、解決に向けて取り組むことができます。
・業務フローの最適化
業務の標準化は、人が行なっていた作業・手順・ルールを見直し、可能な部分は機械により自動化を行います。それにより、手順や品質を一貫性のあるものにし、効率的なプロセスを確立することができます。例えば、製造業の現場での組み立て方法や検査方法が標準化できれば、品質の一貫性が確保され、再作業や廃棄を減らすことができます。
・デジタルツールの導入
AI技術の進歩や利用可能なデジタルツールの増加により、データ入力、顧客対応、在庫管理などこれまで人手を必要としていた業務の一部を自動化できます。結果として、人手を削減し、業務効率を向上させることができます。
また、省人化・省力化を実現するためには、積極的にDXを進めることも重要です。業務フローをデジタル化することによって、データの収集・分析も行いやすくなり、戦略も立てやすくなります。他にも、社内のデジタル改革や企業文化、DXに対する経営層のリーダーシップなども重要となってきます。
製造や物流ではロボットの導入による大規模な省人化もありますが、今回はITツールやクラウドサービスの省人化について事例を紹介します。
・チャットボット(リコージャパン株式会社)
リコージャパンでは社内専用の営業支援のコールセンターがありましたが、欲しい答えにすぐに辿り着けないという課題がありました。そこで、従業員が必要な最新情報へすぐにアクセスできるよう、自己解決型のチャットボットを導入し、その効果を検証しました。
これにより、営業担当は膨大な製品情報から、必要な情報にスピーディーにアクセスできるようになりました。また、移動中や出先などでもスマートフォンからアクセスすることができるため、時間や場所に捉われることもなくなりました。この検証結果としては、電話問い合わせ率は90%から50%に減少しました。
そして、営業支援のコールセンターのサービスをお客様用のコールセンターに振り分けるこで、それまでお客様向けのコールセンターが抱えていた、電話が繋がりにくいという問題の緩和にも役立ち、コールセンター部門の人員配置最適化も実現しました。
・リアルタイム売上予測(株式会社サイゼリヤ)
サイゼリヤとNTTドコモは、AIを使用したリアルタイム売上予測の実証実験を実施し、店舗の運営を効率化、お客様の満足度向上を図ることを目指しました。この実証実験では、人口統計データや気象データを活用し、サイゼリヤが保有する過去の売上実績データなどをもとに、AIによる売上予測を行いました。この予測では、店舗別で現在から数週間先までの売上金額の予測を1時間ごとに確認することができます。
これにより、シフト作成時に予測をもとに作成することで余分な人員確保が不要となり、また不足するという可能性も低いため、サービスの向上もできました。実証実験の結果、サイゼリヤの従来の手法による売上予測よりも誤差を25%縮めることができ、リアルタイム売上予測技術の効果が証明されました。
この技術を確立することで、他の業界でも店舗運営の効率化につながるサービスの実現化を目指しています。
ここまで、省人化についての概要や、省力化・少人化との比較、そのメリットや取り組みにあたっての壁、実践方法や事例を解説してきました。
労働人口減少が深刻な問題となっている日本において、デジタル技術や機械などを活用し、人が行わなくてもできるタスクを任せることで人員を削減することで、人手不足を解消できます。
そして、この省人化を行うにあたっては積極的なDXへの取り組みも忘れてはいけません。
JIITAKでも業務効率化に向けたシステム開発や、デジタルテクノロジーを活用した戦略やビジネスモデルの構築を支援するDX支援も行っております。お悩みごとのある方やご興味ある方は、ぜひ一度JIITAKまでご相談ください!