みなさんは、「AIに仕事が奪われる」こんな話を聞いたことはありますか?
日に日に進歩するIT技術の中でも、特にAI技術は急速に私たちの生活に溶け込んできています。例えば、企業の問い合わせにAIが活用され、24時間のカスタマーサポートが実現しました。また、ビジネスで必要なデータを収集して分析し、それをもとに新しいアイデアやビジネスの創出が行われています。AI技術は、人間の手作業では時間のかかる作業を効率化し、そもそも実現が難しかったことも可能にしています。
確かに、24時間対応可能でヒューマンエラーも起こらないAIは、場合によっては、私たち人間がするよりも遥かに効率的な仕事ぶりを見せてくれるでしょう。それが故に、AIに仕事が奪われるというのも少し現実的に思えるのかもしれません。
そんなAI技術の進歩とともに昨今話題になっているのが「シンギュラリティ」です。日本語では技術的特異点と言い、AIが人間よりも賢い知能を生み出すことを指します。専門家の中で、その分岐点となるのが2045年と言われており、「2045年問題」として世界中で議論が交わされています。
「AIが人間の仕事を奪う」
「AIが人間を超える」
本当にそんな時代が来るのでしょうか?
そこで今回は、AIの歴史を振り返りながらシンギュラリティとは何か?を2045年問題と一緒に解説し、AIと共存する私たちの生活について考えていきたいと思います。ぜひ最後までご覧ください。
Artificial Intelligence(人工知能)の頭文字を取った言葉であるAIは、1950年代にその概念が誕生してから現在に至るまで70年以上、様々な進化を遂げながら私たちの生活を支えてきました。まずは、AIの歴史を振り返っていきます。
【AIの誕生(1950年代)】
AIの起源は、イギリスの数学者アラン・チューリング氏が1950年に出した著書『計算する機械と人間』と言われています。彼はプログラムの基本原理を最初に考案した人物でもあり、人工知能という言葉が誕生する前から知的な機械(チューリング・テスト)についての論文を書き、後のAIを早くから提唱してきました。
そして、最初にAIを定義したのは「人工知能の父」と呼ばれているアメリカの計算機学者ジョン・マッカーシー氏です。1956年、彼は自身の提案書に初めて「人工知能」(Artificial Intelligence)という用語を使用し、AIを「人間の脳に近い機能を持ったコンピュータープログラム」と定義しました。
この2人によって生み出され定義づけられたAIは、ここから一気に世界の科学者たちに広まり、AI開発や関連研究が次々と行われるようになりました。
【第1次AIブーム(1960年代):探索と推論】
最初のAIブームは1960年代のアメリカやイギリスで起こりました。コンピュータによる「探索」や「推論」が可能となり、特定の問題に対して解の提示が可能になったというのが、ブームの要因と言えます。
また、1966年にはマサチューセッツ工科大学のジョセフ・ワイゼンバウム氏により自然言語処理プログラム、イライザ(ELIZA)が開発されました。これは後にiPhoneやiPad、Macに搭載されてるAIアシスタント「Siri」の起源となっています。
しかし、当時のAIは単純な仮説の問題は取り扱えても、要因が複雑に絡まり合った問題は解決できないことが分かり、第1次ブームは去っていきました。
【第2次AIブーム(1980年代):知識表現】
コンピュータに「知識」を与えることで、実用可能な水準へと上げられたAIから、「エキスパートシステム」が誕生しました。エキスパートシステムとは、コンピュータに専門知識を学習させることで、専門家のような回答をするシステムのことです。
ここでいう「知識」は、コンピュータが理解できるような記述にする必要があり、「学習」は機械自らが知識を学習するものではなく、人間が知識をインプットするものでした。
しかし、この世にある膨大な量の情報を、全てコンピュータが理解できるようなデータとして準備するのは限界があります。そのため、活用範囲を限定せざるを得ず、第2次ブームも去っていきました。
【第3次AIブーム(2000年代から現在):機械学習】
第3次AIブームが始まり、特に2010年以降は、ビックデータと呼ばれる膨大なデータから、AIが自ら学習し処理を行うことができる「機械学習の実用化」が行われました。
機械学習を通してアシスタント業務を行うなど、実在する職業を手助けし、仕事の効率を上げることに貢献しています。他にも、プロの将棋士や囲碁棋士との試合に勝利したり、コンピュータが画像や文字を認識をすることも可能になっています。
第3次AIブームは現在でも続いていると言われ、このままのスピードで進化を続けるとやがて訪れるのが「シンギュラリティ」と言われています。
シンギュラリティとは、日本語訳すると「技術的特異点(Technological Singularity)」となり、AIの知能が人間の知性を超える歴史的な転換点のことを指します。アメリカの発明家であるレイ・カーツワイル氏が「2045年にはシンギュラリティが到来する」と提唱しており、これがいわゆる「2045年問題」と言われている問題です。また、シンギュラリティに対しては専門家や研究者の間で、到来の有無やタイミングなど様々な意見が交わされています。
人間が作った技術なのに、AIの知能が人間を超えるとはにわかに信じがたいですが、レイ・カーツワイル氏が予測してきたものはこれだけではありません。
彼はいくつか本を出版していますが、その中で記述した未来予測について、後にその内容を照らし合わせたところ、86%という驚異的な予測的中率だったと言われています。予測してきたものの例を挙げると、小型化されたコンピュータ(スマートフォンやスマートウォッチ)やどこでも利用できるインターネット(ブロードバンド回線)、家庭用のロボットが家事を代行する、チェスや囲碁で人間に勝つAIの誕生など、その他にも多くの予測を的中させてきました。
では、そんな彼がシンギュラリティが到来すると予測している根拠は何なのでしょうか?
シンギュラリティ到来が提唱されている根拠として挙げれられているのが「収穫加速の法則」と「ムーアの法則」です。
収束加速の法則は、「科学技術は指数関数的に進化する」という、イノベーションは加法的ではなく乗法的に、技術の進歩にかかるスピードが、どんどん速くなるという法則です。またムーアの法則は、半導体がどんどん小さくなり、コストも下がりながら、コンピュータの性能は上がるという「半導体の進化」についての法則です。
これら2つの法則に基づいてと、シンギュラリティは2045年に到来すると予測されます。
テクノロジーの歴史を振り返ると、家電の発明、パソコンや携帯電話・スマートフォンの登場、様々なサービスのクラウド化など、テクノロジーはその進化のスピードを加速させながら、多くの製品・サービスを誕生させてきました。
しかし、シンギュラリティの到来はあくまで予測であり、不確定事項です。加速するAIシステム開発によって、シンギュラリティ到来を主張する人がいる一方、AIやロボットは独立した意識や目標を持たないとし、シンギュラリティには懐疑的な見解を示している人もおり、専門家や研究者の間で議論が続いています。
AIは、単純作業やデータ分析、予測などが得意なため、すでに人間による手作業をAIに転換している企業も多くあります。AI技術の導入により、作業が効率化することで、人間は別のところに力を注ぐことができます。このようにAIとうまく共存できれば、労働人口不足が叫ばれる現代の日本において、大きなメリットがあると言えます。
しかしシンギュラリティが起きると、仕事内容の変化だけでなく、AIに置き換わることで人間の仕事が奪われる、そして人間の知能を超えたコンピュータの暴走が起きるなど、人間の居場所がなくなってしまうような予想がされています。
特に、人間の仕事がAIに奪われる「AI失業」の話題は、ニュース等で取り上げられているのを一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
革新的なテクノロジーの誕生により雇用が減少する懸念は、シンギュラリティがきっかけに始まったとではありません。長い歴史の中で何度も技術革新による雇用減少が懸念されてきましたが、実はその反対の結果になっています。
例えば、経理業務に革新をもたらしたMicrosoftのExcelを例に挙げてみます。Excel導入による作業効率化で確かに、企業の経理担当は減少しました。しかし、経理業務が活かせる会計士・監査役・経営アナリスト・財務マネージャーなどは増加し、雇用の総数としては変化していないようなイメージです。
このような経験から、経済学では「技術革新は新たな雇用が創出される」というのが共通認識となっています。しかし、今回挙げたExcelの例のように今までの業務が活かせる再就職が難しいケースもあるため、シンギュラリティも必ず新しい雇用を創出するとは断言できません。もし本当にシンギュラリティが到来した場合は、この混乱に直面する人のリスキリングの支援は必須と言えます。
シンギュラリティに到達すると、AIは自身でより高性能なAIを作ることが出来ると言われています。AIの中でも恐れられているのは、チャットボットなどのAIではなく、人間と同じ意識と心を持ったAIの誕生です。
すでに偉人のデータを学習させた人格を持つAIが誕生していますが、そうではなく、人間の知能を超えた上に人格を持ったAIが誕生してしまったら…人間の知能を超えているものが起こすアクションに、人間が対処しきれるのでしょうか?そのため、専門家の中にはAIは人類の恐怖とし、開発を制限するべきという「AI脅威論」を唱える人もいます。
そんなAIが脅威ともなり得る現代のAI開発にあたり、「AIアライメント(AI Alignment)」が注目されています。AIアライメントとは、AI開発や研究において、AIに人間の価値観・倫理観に沿った適切な選択・行動をさせるにはどのようにしていくべきかの研究や議論のことです。
AI技術の急速な進化に伴い、AIが人間の社会に与える潜在的な影響やリスクは増大し、人間の価値観と一致しないAIの行動は様々な問題を引き起こす可能性があります。そのため、人間とAIが安全に共存するためには、AIが人間の意図に反する動きをしないよう制御していくことはが重要です。AIが人間の倫理観に基づいた善悪の判断をできるようになれば、人間がAIに支配されるということは考えにくいでしょう。
また、一部の企業、特にGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)などは、AIアライメントに取り組んでおり、例えば個人情報のプライバシー保護やAIの倫理的なガイドラインの確立など、AIを安全に利用するための取り組みを行っています。
急速なAIの発展により、今後AIに人間が追い越される未来はないとは言い切れないため、AIの倫理観を調整するための前段階であるAIアライメントの研究や実践は、人間とAIが安全に共存するために非常に重要なのです。
前にも少し触れましたが、AIは知識やデータの蓄積・活用とそれに基づいた論理的な思考を得意としており、この2つの能力を活かせる「知識労働」分野の職業はAIが代替する可能性があると言われています。そのため、各業界AIに仕事を奪われぬように、人間がするからこその付加価値をどのように磨いていくかが検討されています。
また、本来は人間の強みとされていた、身体的な経験の蓄積による暗黙知や直感的な意思決定についても、膨大なデータの学習・分析によって、AIが代替しているものも出てきているのが現状です。
では、AIが代替できない能力とはどのようなものなのでしょうか?多くの専門家の中で、以下の3つの能力が挙げられています。
・ホスピタリティ
相手の心の声に耳を傾け、相手の立場に立って物事を考えることで、本当に感じていることや考えていることを察し、深く共感する力
・マネジメント
組織のメンバーが悩んでいる時に悩みを吐き出しやすい環境を作り、話を聞いてあげる力や、立ち直る力を支える、心理的なマネジメント力
・クリエイティビティ
組織のメンバーが集うことで、何倍にもなったアイデアを実行まで持っていく力
やはり人間が働く以上「気持ち」に触れずに働くことは難しいでしょう。人間は仕事やプライベートの目標や楽しみ、悩みなど様々な感情を抱きながら働いています。AIによっていくら作業が効率化されるとはいえ、人間の感情がなくなるわけではありません。表情や声色など些細な変化を汲み取り、考え、行動に起こせるのは、やはり人間だからこそできることと言えるでしょう。この力こそが、AIに立ち向かえる人間の能力と言えます。
ここまでAIの歴史を振り返り、AIが人間の知性を超える「シンギュラリティ」が起こったらどうなるのか?そして、私たちの生活にどのように影響するのかについてお話してきました。シンギュラリティについて提唱されてから、専門家や研究者の間でたくさん論争されてきましたが、まだその答えは出ていません。
AIの技術はここ数十年、数百年先にも誕生しないかもしれない、本当に革新的なテクノロジーと言われています。
労働人口の減少が進む日本にとってAIは、導入によって作業効率化が見込め、人員が減っても今までの生産量・質を落とさない手助けとなったり、ニーズ発見が難しくなったビジネスのデータ分析に役立ったりと、便利であることには間違いありません。そして、今もすでに馴染みつつあるAIは、これからもっと私たちの生活に浸透していくでしょう。
「AIは味方か、敵か。」
結論を出すにはまだ早すぎるかもしれません。ただ、AI脅威論も唱えられる中、対策が必要なのも事実です。これからも進化していくであろうAI技術によって、革新的な関連サービスが誕生していくことでしょう。楽しみとちょっぴり怖さとが入り混じるなんとも不思議な気持ちです。次に出てくるのはどのようなサービスでしょうか?また、次はどんなテクノロジーの進化が私たちの生活に利便性や刺激をもたらしてくれるのでしょうか?
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