テストで見つかった問題が小さくても、リリース後に大きな問題へと発展する可能性があります。そのため、テストチームはテストの未実施箇所が発生しないよう、細心の注意を払い徹底的なテストを行います。
また、近年のソフトウェアテストの在り方は、アジャイル手法やDevOpsの導入により変革を迎え、トレーサビリティの重要性がますます高まっています。
そこでよく使用されているのが、「要件トレーサビリティマトリックス(Requirement Traceability Matrix/以下、RTM)」です。RTMは、すべての要件がテストされていることを保証し、品質と信頼性を確保するために欠かせないツールとなっています。
本ブログでは、テスター視点からRTMの重要性や、その活用方法、テストカバレッジの管理について実際の使用例を交えて解説していきます。
時はソフトウェア工学の初期に遡り、大規模なプロジェクトにおいて構造的なテストの必要性が高まる中で、「要件を対応するテストに紐付ける」という考え方が生まれました。
従来のウォーターフォールモデルでは、最初に要件を洗い出し、テスターが手動で各要件のテスト進捗を確認していました。しかし、手動のプロセスには限界があり、エラーが発生しやすく、システムの複雑化に伴ってうまくスケールできませんでした。
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そこで誕生したのが、RTMです。誕生当初の目的は、「各要件を対応するテストケースに紐づけて、カバレッジを網羅する」という、シンプルなものでした。
しかし、アジャイル手法の普及に伴って、要件のトラッキング方法の変更が当たり前となり、継続的インテグレーション(CI) / 継続的デリバリー (CD)パイプラインに対応できる、より柔軟かつ動的な方法が必要となりました。
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時代の変化に対応を続けた最新のRTMは、テストケースや要件をトラッキングするだけでなく、バグや変更(カタログ形式)、コードリポジトリとも関連付けられています。そのため、テストの進捗を360度あらゆる角度から確認できるようになりました。
また、テスト管理ツールや自動化フレームワークとの統合によって、RTMの機能はさらに向上し、開発ライフサイクル全体にわたるトレーサビリティ管理の中心となっています。
前述したように、現代のソフトウェア開発環境は変化が激しく、要件の変更も行われる中で、テストを完全に網羅することは至難の業です。
特にアジャイル手法やDevOpsでは、提供までのスピードが求められる中、変化する要件を把握する必要があり、重要なテストを見逃すリスクが高まる傾向にあります。もし見逃してしまった場合、ソフトウェアに不具合や遅延の発生、エンドユーザーの期待を裏切ってしまう可能性もあり、これらの対応には、多くの時間と費用を要します。
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つまり、すべての要件をトラッキングできる体系的なアプローチを取らないと、不完全なテストによるリスクを負うことになります。このようなトラッキングに関わる問題の解決策として活用されているのが、RTMです。各要件に対応するテストケースを作成することで、テスターは不具合を見落とさず、全体を網羅したテストを実施できるだけでなく、医療、金融、航空宇宙などの業界で求められる規制や基準への準拠を証明する根拠としても機能します。
ここに、スピードが重視される今日の開発環境において、品質を犠牲にしないためにRTMが重要視されている理由があります。
RTMは、要件を対応するテストケースに結びつけるドキュメント/システムです。どの要件がどのテストによってカバーされているのか、また、それらを満たすためにシステムがどのように機能しているのかを示します。
一般的にRTMは「表」として構成され、行に個々の要素、列にテストケースやテストステータス、欠陥IDを入力します。この表はExcelのようなツールを使って手動で作成可能ですが、JIRA、HP ALM、TestRailなど最新のテスト管理ツールに統合して、プロセスの大部分を自動化することも可能です。
また、RTMのメイン機能は、すべての要件がテストされていることを確認するトレーサビリティです。このトレーサビリティは、前後方向どちらからでも可能です。
・順方向トレーサビリティ
要件からテストケースへのマッピングにより、すべての要件がテストされていることをします。
・逆方向トレーサビリティ
テストケースから要件へのマッピングにより、対応する要件がないテストが作成されていないことを確認します。
より高度なRTMでは、欠陥トラッキングのような機能が取り入れられることもあります。この機能により、テスターは発生した欠陥を、それを発見した要件やテストケースに関連付けることができます。これにより、欠陥の進捗を追跡しやすくなり、その欠陥がシステム全体に与える影響をより正確に把握できるようになります。
RTMは、各規制要件が確実にテストされ、要件を満たしていることを保証できるため、金融、医療、行政などの厳しい規制が敷かれている業界において、多く活用されています。以下で、活用事例を挙げていきます。
・医療ソフトウェア
RTMを使用して、各法的要件と運用要件を特定のテストケースにマッピングし、最終的にソフトウェアが医療基準に完全に準拠していることを確認することができます。
・アジャイル手法やDevOpsの開発
RTMを継続的なテストサイクルに統合することで、スプリント中に追加された新しい要件が即座にテストケースや欠陥とリンクされるようにします。これにより、アジャイル手法の流動的な性質に影響されることなく、全体を網羅したテストを維持することができます。
・大規模なECプラットフォーム
RTMを活用することによって、ショッピングカートから決済システムに至るすべての機能が徹底的にテストされ、機能要件と非機能要件を満たしていることがを保証します。
主な課題の一つに「RTMを維持すために必要な手作業」があります。プロジェクト規模が小さければ管理も難しくないかもしれませんが、何百もの要件やテストケースのある大規模なシステムにおいて、RTMを更新し続けるのは大変な作業になる可能性があります。特に、アジャイル環境では、要件の変更が頻繁に起こるため、表を最新の状態に保つことが難しくなります。
そこで、RTMをバージョン管理やテスト管理システムなどの自動化ツールと統合することで、課題の一部を軽減できる可能性があります。しかし、自動化を使用しても、急速に変化する要件やプロジェクトの複数の側面から作業する規模の大きなチームの場合、トレーサビリティの維持が複雑になる可能性があります。
RTMはこれから、AIを活用したテストツールとの統合が進むと予想されています。AIがテスト領域に浸透するにつれ、RTMは要件に基づいたテストケースを自動生成し、要件の変更にも適応するようになる可能性があります。これが実現すれば、手作業が大幅に削減され、テストにかかる時間が短縮されながらも、精度の向上が見込めます。
また、よりビジュアル化され、ダッシュボードとリアルタイムデータを使用して、テストカバレッジを関係者に即座に提供し、手作業による報告の必要性を減らすこともできるでしょう。
RTM(Requirement Traceability Matrix/要件トレーサビリティマトリックス)は、包括的なテスト範囲とトレーサビリティを確保するためにテスターにとって不可欠なツールとなっています。
要件をテストケースに直接結びつけることで、テスターはテストの進行状況を効果的にトラッキングし、重要機能が欠落していないことの確認や、規制・基準への準拠を保証することができます。
ソフトウェア開発プロセスが進化し続ける中、RTMは品質保証の重要なコンポーネントであり続けるでしょう。