従来のRESTful APIが、現代のアプリケーションの多様な要求に応えられない状況が増えています。これが、データ検索の非効率や複雑さに繋がっているとも言われていますが、その理由を考えたことはありますか?
今日の急速に変化するデジタル社会において、シームレスなデータ交換が、ビジネスやアプリケーションの成功において最も重要と言われています。
しかし、従来のAPIアーキテクチャでは、効率的なソリューションを提供できないことがしばしばあります。RESTfulには、データのオーバーフェッチやアンダーフェッチといった問題があり、これがAPI開発における柔軟で最適化されたアプローチの必要性を浮き彫りにしています。
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GraphQLは、APIアーキテクチャの分野において、新たな流れを作る、革新的な技術です。
本ブログでは、GraphQLの歴史、機能、実際のアプリケーション、課題、将来の展望を解説しており、現代のソフトウェア開発における重要性を包括的に理解してもらうことを目的としています。
読み終わる頃には、GraphQLがAPI開発の環境をどのように再構築し、開発者が将来に向けてより効率的で拡張性があり、適応性の高いアプリケーションを構築できるようになるかについて、理解できるようになるでしょう。
GraphQLは、簡単に言えばAPI用のクエリ言語[1]で、既存のデータを使用してこれらのクエリを実行するためのランタイム環境です。GraphQLは、API内のデータを完全かつ理解しやすい記述を提供し、クライアントが必要なものだけを要求する機能で、時間の経過とともにAPIを進化させやすくし、強力な開発者ツールを実現します。
また、データの読み取り、書き込み(変更)、変更の購読(リアルタイム更新:ほとんどが、WebHooksを使用した実装)をサポートします。GraphQLサーバーは、Haskell、JavaScript、Perl、Python、Ruby、Java、C++、C#、Scala、Go、Erlang、PHP、R など、複数の言語で利用できます。
GraphQLの特長としては、必要なものを要求し、それ以上でもそれ以下でもなく、それだけを受け取るコンセプトであるという点です。
APIにクエリを送信すると、GraphQLは過不足のない結果を返すため、GraphQLを使用するアプリケーションは高速で、安定しており、拡張性があります。
GraphQLは、2012年にFacebookの社内開発から生まれました。その起源は、Facebookがモバイルアプリを拡張する際に直面した課題に遡ります。
当時、Facebookのモバイルアプリケーションは、Webプラットフォームを転用したもので、モバイル向けにHTML5を単純に採用するアプローチをとっていました。しかし、この戦略は非効率的であることが分かり、高いネットワーク使用量と最適とは言えないユーザー体験に繋がりました。
Facebookが直面した主な問題の1つは、モバイルでのニュースフィードの実装でした。Webプラットフォームとは異なり、モバイルアプリでは、相互に関連する記事を取得し表示するために、階層的、入れ子式、再起的なアプローチが必要でした。
従来のRESTful APIでは、この複雑なデータ構造を効率的に処理することができませんでした。既存のAPIには、シームレスなユーザー体験を提供するために必要な階層性と柔軟性が欠けており、開発者はモバイルでニュースフィードのような充実した体験を提供するのに苦労していました。
こうした課題に対処するため、Facebookのチームは、モバイルアプリに特化した新しい APIの開発に着手しました。この取り組みこそが、GraphQL の始まりです。
数ヶ月かけて、GraphQL APIはFacebookのiOSアプリのほとんどの機能をカバーするまでに拡張され、開発者は必要なデータを正確に選択し、不要なデータの過不足を排除できるようになりました。また2015年には、GraphQL仕様がJavaScriptの標準実装とともに公開され、社内プロジェクトからオープンソース技術へと移行しました。
GraphQLは公開リリース以来、開発者やアプリケーションの変化するニーズに対応すべく、大きな進化を遂げてきました。
重要な発展の1つとして、2018年にLinux Foundationが主催するGraphQL Foundationの設立があります。この動きにより、API開発における主要技術としてのGraphQLの地位はさらに強まり、オープンソースのコラボレーションとコミュニティ主導のイノベーションへの取り組みが強調されました。
さらに、GraphQLは様々な業界やプラットフォームで急速に採用されています。GitHub、Yelp、Airbnbなどの企業は、データ取得の最適化、API開発の簡素化、開発者の生産性向上の能力からGraphQLを採用しています。
ツール、ライブラリ、フレームワークの急成長中のエコシステムのサポートにより、GraphQLは現代のソフトウェア開発において、効率的で柔軟なAPIを構築するための最適なソリューションとなっています。
また、GraphQLは新機能の導入や、機能強化を続けています。GraphQL仕様の更新、ツールの改善、GraphQLベースのCMS の出現により、GraphQLの機能と用途はさらに拡大しています。
この技術が成熟するにつれて、API開発やソフトウェアエンジニアリングへの影響は拡大し、デジタルイノベーションの未来を形作ることが期待されています。
従来のRESTful APIは、データの効率的な取得・管理する上で、しばしば課題に直面し、これが、アプリケーション開発の非効率性や複雑性に繋がっていました。
課題は、RESTfulエンドポイントの硬直的な性質に起因しており、クライアントは関連するデータを取得するために、異なるエンドポイントに複数のリクエストを行う必要があります。その結果、開発者は不要なデータが取得されるオーバーフェッチや、重要なデータが欠落するアンダーフェッチなどの問題が多く、遅延の増加、パフォーマンスの低下、クライアント側でのデータ処理の複雑化に繋がります。
ここでGraphQLは、データ「取得」と「操作」により柔軟で効率的なアプローチを提供することで、これらの問題に対処します。
GraphQLを使用すると、クライアントは1回のリクエストで必要なデータを正確に指定できるため、異なるエンドポイントへの複数のラウンドトリップが不要になります。これにより、正確で予測可能なデータ取得が可能になり、アプリケーションは必要なデータのみを受信し、過不足がないようにすることができます。
さらに、GraphQLの型システムとイントロスペクション機能により、明確で有益なエラーが提供されるため、開発者はクエリをより効果的に理解し、デバッグすることができます。
この問題で重要なのは、アプリケーションのパフォーマンス、開発者の生産性、ユーザー体験に与える影響です。
非効率的なデータ取得は、アプリケーションのパフォーマンスを低下させるだけでなく、開発ワークフローを複雑にし、開発サイクルの長期化やメンテナンスのオーバーヘッドの増加に繋がります。さらに、データ処理が不十分だと、アプリケーションがユーザーにタイムリーで適切な情報を提供できなくなるため、最適とはいえないユーザー体験をもたらす可能性があります。
従来のRESTful APIに関連する課題と、GraphQLが提供するメリットを理解することで、GraphQLを導入することで開発プロセスをどのように効率化し、アプリケーションのパフォーマンスを改善し、ユーザー満足度を高めることができるか理解することができます。
GraphQLは、APIの最適化を目指す開発者や、顧客により良い体験を提供したいと考える経営者とって、現在のアプリケーション開発におけるデータ取得の課題に対する魅力的なソリューションを提供します。
GraphQLは、API用のクエリ言語であり、これらのクエリを既存のデータで実行するランタイム環境です。
一般的にデータ取得のための固定エンドポイントセットを公開する従来のRESTful APIとは異なり、GraphQLではクライアントが1回のリクエストで必要なデータを正確に指定することができます。これは、APIで使用可能なデータの構造を定義する型システムによって実現されます。
GraphQLでは、データは型に整理され、各型はユーザー、投稿、コメントなどの特定の種類のオブジェクトを表します。これらのタイプは、クエリ可能なフィールドと異なるタイプ間の関係を定義します。
例えば、ユーザータイプには、名前、電子メール、投稿などのフィールドがあり、投稿はそのユーザーに関連付けられた投稿オブジェクトのリストです。
ここで、私たちの生活に置き換えて考えてみます。スーパーで食料品を買うことを想像してみてください。
従来のRESTful APIでは、買い物リストにあるすべての品物を集めるために、複数の通路を回る必要があり、非効率的です。
GraphQLの場合は、様々な通路を移動する代わりに、カスタマイズされた買い物リストを作成して、パーソナルショッパーに渡すことができます。必要なアイテムをリストアップするだけで、どの通路にあるかに関係なく、パーソナルショッパーがすべてを集めてくれます。
GraphQLでは、必要なデータを指定してサーバーにクエリを送信します。特定の型から特定のフィールドを要求することができ、GraphQLはそのデータを正確にレスポンスとして返します。例えば、ユーザー名とメールアドレスだけが必要な場合は、クエリにそれらのフィールドを含めることができ、GraphQL はその情報だけを含むレスポンスを返します。さらに、GraphQLでは関連するデータを1回のクエリで取得できるため、サーバーに何度も往復する必要がありません。
このデータ取得の合理化されたアプローチにより、GraphQLは最新のアプリケーションのニーズに適応できるAPIを構築するための効率的なツールになります。
GraphQLは様々な業界やアプリケーションで広く採用されており、最新のソフトウェア開発におけるデータの取得・管理方法に革命をもたらしています。ここでは、GraphQLが実際にどのような場面で使用されているか、紹介します。
・Eコマースプラットフォーム
ShopifyやEtsyなどの多くのEコマースプラットフォームは、APIを強化するためにGraphQLを採用しています。GraphQLにより、これらのプラットフォームは製品情報を効率的に取得し、複雑なデータ関係(製品、カテゴリ、レビューなど)を処理し、ユーザーにパーソナライズされたショッピング体験を提供することができます。
・ソーシャルメディアプラットフォーム
Facebook、Twitter、Pinterestなどの大手ソーシャルメディアは、GraphQLを活用してデータ取得を最適化し、パーソナライズされたコンテンツをユーザーに提供しています。1回のクエリで必要なデータのみを取得するGraphQLの機能は、これらのプラットフォームがユーザーエンゲージメントを強化し、コンテンツ配信を効率化することができます。
・コンテンツ管理システム (CMS)
WordPressやDrupalなどのコンテンツ駆動型プラットフォームは、GraphQLを統合して、コンテンツ取得のためのより柔軟で効率的なAPIを提供しています。GraphQLは、コンテンツの取得、様々なコンテンツタイプ間の関係管理、ユーザーへの豊かなメディア体験の提供を可能にします。
・モバイル アプリケーション
モバイルアプリ開発チームは、従来のRESTful APIの制限を克服するためにGraphQLの採用を増やしています。GraphQLを使用すると、モバイルアプリは効率的にデータを取得し、ネットワークの使用を最小限に抑え、低速または不安定な接続でもシームレスなユーザー体験を提供することができます。
・パフォーマンスの向上
GraphQLは1回のクエリで必要なデータのみを取得できるため、ネットワークのオーバーヘッドが最小限に抑えられ、待ち時間が短縮され、アプリケーションの速度と応答性が向上します。
・開発者の生産性の向上
データ取得用の分かりやすく直感的なインターフェースを提供することで、GraphQLは開発プロセスをシンプルにし、開発者が迅速かつ効率的に反復作業できるようにします。
・拡張性と柔軟性
GraphQLの柔軟なデータモデルと効率的なクエリ実行により、複雑なデータ関係や進化するアプリケーション要件の処理に適しています。この拡張性と柔軟性により、アプリケーションは時間とともに成長し、変化するユーザーのニーズに適応することができます。
このように、GraphQLの採用により、現代のソフトウェア開発におけるデータの管理およびアクセス方法が一変し、開発者は幅広い業界や用途に渡って、より効率的で拡張性があり、適応性の高いアプリケーションを構築できるようになりました。
GraphQLには多くのメリットがある一方で、いくつかの課題や制限もあります。以下で、その課題と解決方法を解説していきます。
・学習曲線
GraphQLを採用するには、開発者が新しいクエリ言語を学習し、その概念を理解する必要があるため、従来のRESTful APIに慣れたチームにとっては難しい場合があります。
・キャッシュとパフォーマンス
GraphQLのデータ取得における柔軟性は、データのオーバーフェッチに繋がる可能性があり、パフォーマンスへの影響やサーバー負荷を増加させます。さらに、GraphQL APIのキャッシュ戦略はRESTful APIほど単純ではなく、パフォーマンスを最適化するには慎重な実装が必要です。
・セキュリティ上の懸念
GraphQL APIは、データ漏洩やサービス妨害攻撃などの特定のセキュリティリスクに対して脆弱です。これらのリスクを軽減するには、適切な認証、承認、および入力検証が不可欠です。
・教育とトレーニング
包括的なトレーニングと教育リソースに投資することで、開発者はGraphQLの導入に伴う学習曲線を克服できます。オンラインコース、ワークショップ、ドキュメントは、貴重な考察とガイダンスを提供します。
・パフォーマンスの最適化
データの正規化や永続的クエリなどの効率的なキャッシュ戦略を実装することで、GraphQL APIのパフォーマンスを向上させることができます。さらに、DataLoaderなどのツールは、データ要求をバッチ化してキャッシュすることで、データベースの負荷を軽減するのに役立ちます。
・セキュリティ対策
データ転送にHTTPSを使用する、レート制限とクエリ深度制限を実装する、ユーザー入力をサニタイズするなど、APIセキュリティの優良事例を採用することで、GraphQL APIに関連するセキュリティリスクを軽減することができます。また、JWTやOAuthなどの認証および承認メカニズムを活用することで、承認されたユーザーのみが機密データにアクセスできるようになります。潜在的なセキュリティ脆弱性を事前に特定し、事前に対処するために、定期的なセキュリティ監査と脆弱性評価も推奨されます。
GraphQLの将来は、以下のような新しいトレンドの影響を受け、ますます発展していくでしょう。
・GraphQL Federation
GraphQLの拡張機能であるGraphQL Federationは、複数のGraphQLスキーマを単一のまとまったAPIに構成することを可能にします。このアプローチにより、組織は分散チームやマイクロサービスアーキテクチャ全体にGraphQL実装をシームレスに拡張することができます。
・スキーマステッチング
スキーマステッチングは、複数のGraphQLスキーマを1つの統一されたスキーマに統合することを簡単にします。このアプローチにより、複雑なデータモデルの管理を簡素化し、アプリケーションの様々な部分で再利用性を促進します。
・ツールとエコシステムの成長
GraphQLが普及し続けるにつれて、GraphQL開発環境を強化するために設計されたツール、ライブラリ、フレームワークが急増することが予想されます。IDEサポートの改善から高度なパフォーマンス監視ツールまで、GraphQLエコシステムは大きな成長と革新の準備が整っています。
これらのトレンドは、GraphQLを現代のソフトウェア開発における主要なAPI技術としてさらに確立する可能性を秘めています。
組織が様々なデータソースをシームレスに統合し、APIを拡張し、開発ワークフローを効率化できるようにすることで、GraphQL Federationやスキーマステッチングは、より堅牢で拡張性のあるアプリケーションの構築を可能にします。
また、GraphQLエコシステムの成長が開発者コミュニティ内での連携と革新を促進し、様々な業界や用途においてGraphQLの普及と拡大を後押しするでしょう。
ここまで、GraphQLの起源と進化、様々な業界の実際のアプリケーション、直面している課題について解説してきました。
GraphQLは、 API技術において大きな進歩を遂げ、データの取得と操作に対して、柔軟かつ効率的なアプローチを提供しています。学習曲線やパフォーマンスの最適化などの課題はありながらも、Federationやスキーマステッチングなどの新しいトレンドに後押しされ、勢いを増し続けています。
今後を見据えると、GraphQLにはAPIの構築や操作方法に革命をもたらす可能性があり、開発者コミュニティにおける革新や協力を促進するでしょう。
組織がGraphQLを受け入れ、そのエコシステムが成長し続ける中、GraphQLはソフトウェア開発の未来を深く形作る存在として定着していくことは明らかです。