みなさん、突然ですが「DX」という言葉の意味を説明できますか?近頃よく耳にしますが、いざ説明するとなると説明できない方も多いのではないでしょうか?
デジタル化により社会や生活のスタイルが変わることを意味するDXは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でリモート勤務など新しい働き方が浸透したことで、その動きが一気に加速しました。そして、今では経営における1つの重要なポイントとなっています。
そこで今回は、知っているようで知らない「DX」について、基本的な部分から取り組みの現状と、成功させるためのポイントや成功事例を解説していきます。ぜひ最後までご覧ください。
DXという言葉は2004年にスウェーデンのウメオ大学教授であるエリック・ストルターマン氏によって、「ITの浸透と進化は人々の生活をあらゆる面で豊かにする」として提唱されました。定義は以下の通りです。
・デジタルトランスフォーメーションとは
企業や行政などの組織や活動、あるいは社会の仕組みや在り方、人々の暮らしなどがデジタル技術の導入と浸透により根本的に変革すること。(出典:IT用語辞典[1])
また、日本では経産省が社会のDXを掲げています。経産省による定義は下記の通りです。
・DXとは
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。(出典:経済産業省[2])
DXによって、これまで人の手で行っていたアナログ作業をIT技術でデジタル化することで世の中のあらゆることを効率化できたり、人々の生活を便利で豊かにしたり、レガシーシステムから脱却しビジネスとして成り立つような体制を整えることが可能になります。
また、DXの付くワードについてもご紹介しておきます。
・DXサービス
DXサービスという言葉は一般的に、DXの「支援」を行うことを指します。支援の方法は「技術的な支援」と「ビジネス変革の支援」の2つに分類することができます。
ー 技術的な支援:システムの構築支援や、IoT(モノにインターネットを接続する)の活用といった導入・運用をメインにサポートする。
ー ビジネス変革の支援:デジタル戦略策定やDX人材の育成といった、DX達成に向けた業務フローや組織体制の変革といったDXの根本の部分からサポートをする。
・DX会社(デジタルトランスフォーメーション企業)
DX会社は上記の「DX支援」を強みとして、企業のDX推進業務を行う会社のことを指します。他にも、デジタルトランスフォーメーション企業という言い方をする場合もあります。企業がDXを行う際、まずその知識を持った人が率先してDXに取り組む必要があります。しかし、DX人材がいないため、DXを進めたくても進めれないという企業がいるのも現状です。そんな時は、外部の会社にサポートしてもらうというのも1つの手段です。
「DX」と似た言葉で、よく混同して使われているのが「デジタル化」や「IT化」ではないでしょうか?
簡単なイメージとしては、デジタル化は周囲のアナログ情報をデータ化することで、IT化はその変換した情報を効率的に使うための技術を導入し、生産性を向上させるようなイメージです。以下で具体的な内容について解説していきます。
・デジタル化
身の回りにあるアナログの情報を数値や整数などのコンピュータが理解できるものでデジタルに変換することです。例えば昔のカセットテープをコンピュータで聴けるようにしたり、昔の写真をデバイスで見れるように表示することです。
・IT化
コンピュータ技術などの情報技術を使用して、組織やプロセスに導入し、業務効率や生産性を向上出来ます。コンピュータシステム、ネットワーク、ソフトウェアなどのテクノロジーの活用がこれに当たります。
IT化とデジタル化は組み合わせて使用されることがよくあります。例えば紙媒体で保存されていたデータをPDFなどの電子データに変換することはデジタル化の一例です。そしてそのデジタル化された情報をコンピューターシステムやネットワークを通じて送信したり、クラウドサービスを利用して共有したりすることはIT化になります。
そして、今回のテーマであるDXはIT技術を活用して新しい価値を創造していくことで、企業を変革させ企業に競争力を持たせたり、顧客満足度向上を図るものです。そのため、IT化・デジタル化はDX実現に向けた1つの手段であると考えることができます。
DXが重要視されるのは、急速に変化する現代のビジネスと社会の中で、それに伴う需要と供給を、人間の手では不可能な部分まで対応できるからです。ここでは数あるメリットのうちから、いくつか紹介します。
・変化する世間のニーズへの迅速な対応力
市場においては最先端のマーケティング技術を取り入れることができるため、柔軟に市場に対応することが出来ます。ビジネスモデルを変革しながら、時代に合った価値を提供し続けることが出来ます。
・正確性・効率性の向上
細かい作業や単純作業のエラーや間違いを削減し、正しい処理を行うことができ、正確性を向上させることができます。これにより人件費の削減、労働時間の短縮、メイン業務への集中などが可能になります。 アナログの何倍もの速さで取り組むことで、複数人分の仕事をこなしたりと、業務プロセスを改善し、企業の競争力を高めることが出来ます。
・データによる戦略
データ収集を行うことで、様々な情報をコンピュータが分析し、顧客が興味を持ちそうなコンテンツの提供やリアルタイムな数字によるデータの表示など、飽きないサービスを提供することが出来ます。
・新しいビジネスモデルの創出
コロナウイルス流行時にオンライン決済システムやオフィスワークサービスなど、様々なデジタル化サービスが登場しました。このようにデジタル化は新たなビジネスモデルを誕生させることが出来ます。
・顧客体験の向上
デジタル化でデータとアルゴリズムを使用し、顧客ごとに沿ったおすすめアイテムや記事を表示させることが出来ます。一人一人に沿ったサービス提供により、顧客も長く飽きないサービスの体験が可能となり、顧客体験の向上が見込めます。
・持続可能性の実現
現在日本では多くの企業が古いシステムの維持に費用がかさんでいます。中にはCO2を多く排出したり、エネルギーを大量に使用してしまっているものもあります。時代の流れに合ったシステムを導入することで、エネルギーを削減し、持続可能性を実現することが出来ます。
2018年に経済産業省より発表されたデジタルガバナンス・コード(旧:DX推進ガイドライン)というものがあります。組織がデジタル化された環境で適切な意思決定や管理を行うための仕組みを確立するための方法が書かれており、多くの企業で参考にされています。以下は一般的なDXの進め方です。
現状分析
まずはDXで実現したいこと・課題を明確にし、競合や他社がどのようにDXを成功したかを調査します。この時点で市場ニーズ、自社のリソースの把握も行います。 経営トップが強い意志と方向性を持ってリードし、社内のマインドセットや組織改革を行うことが成功の鍵となっています。外部リソースに頼るよりも、自社の人材を育成することによって、今後のDX推進が社内で一貫性のあるシステムとして構築することができます。
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ビジョンや戦略の設定
ビジネスとITシステムを一体的に捉え、デジタル技術による変革が自社にどのような影響をもたらすのか考え、中期経営計画の策定を行います。ビジネスモデルの設計を行い、DXがもたらす影響をリスクの面も把握し理解を深め、全体の方向性を定めます。ゴールを決めることによって、軸がぶれたり目的を見失ったりすることがなくなりするため、チームで共通意識を持つことができます。
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DXロードマップなど具体的な計画の設定
データを重要経営資産の一つとして活用することを含め、この時点でデジタル戦略の詳細なロードマップを組みます。どの部署がいつまでに何を達成させるのか、予算はどれくらいかけるのかなどを策定します。現場の人材も加わって一緒に計画することで、より確実にすることができます。
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DX推進のための環境を構築
DXを推進するための体制を整えます。代表的な編成は既存のIT部門を強化する「IT部門拡張型」、各部門内にDX推進部門を配置する「事業部門拡張型」、専門のDX推進専門組織を立ち上げる「専門組織設置型」などがあります。また、DXならではの環境変化の速さに対応できる文化やITリテラシーへの理解を深め、各部署でスムーズで継続的な業務が行えるよう体制を整えます。
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実行
環境が整ったらいよいよ実行に移ります。思い通りにいかないこともあるため、いきなり大掛かりな実行をするのではなく、少しずつ実行し、データを集めて改善を行っていきましょう。 ここで従業員へのトレーニングや教育が必要になったり、他部署との連携が慎重になったりすることが多いため、人材管理にも力を入れます。
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業務の安定、改善
業務プロセスを改善させるため、ここまで行なってきたDXによるメリット・デメリットをまとめ、今後の改善案を練ります。
日本は海外と比較するとDXが遅れていると言われています。なぜ日本のDXが遅れているかは、経済産業省の「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~[3]」を読み解くと明らかになります。この中で、理由は大きく分けて「人材不足」、「レガシーシステムの存在」、「日本特有の文化」と言われています。
例えば「2025年の崖」問題は、既存のレガシーシステムを使い続けることによる維持費用が2025年までに現在の3倍にあたる12兆円になると言われている問題です。しかし古いシステムを刷新するにも新しいシステム導入に必要なコストや労力がかかるため、DX推進が遅れる理由の1つとなっています。また日本の企業文化的に安定性と守りの体制が強いため、新しいものを積極的に取り入れることが難しい風潮があります。
このままではいけないと、日本でも大企業を中心にDX推進の取り組みが行われ、IT人材不足の問題の解決に向けて政府もIT人材の育成に力を入れていますが、海外に比べるとまだまだ普及が遅いというのが現状です。
反対に、アメリカや中国では積極的にDXが進んでいます。その理由は、ビジネス環境の変化への柔軟性を持った文化や政府の取り組みを中心に、何十年も前から集めていた顧客データ、行動データ分析、ビッグデータの活用、AIへの研究や開発費用への投資が行われていたからと言われています。
先ほど日本はDXが遅れているとお話ししましたが、先陣を切ってDXに取り組み、改革に成功した企業ももちろんあります。ここでは、海外と日本のDX成功事例を2社ずつ紹介します。
【海外のDX成功事例】
・Best Buy(米)
Best Buyは、アメリカの家電量販店です。一時はやがて経営破綻に陥ると思われていましたが、実際に店舗で見て安いオンラインサイトで購入する消費者行動に目をつけ経営回復しました。リアルな店舗とWeb技術を駆使し、ネットで購入したものを実店舗で受け取れるようにしたり、店舗で見た額よりもオンライン販売価格が高い場合、差額を返金するようにしたり、デジタル変革にてV字回復を遂げました。顧客が店舗で購入した商品の説明がメールで届くようなシステムを取り入れたり、一人一人のデータを分析するようにしました。
・Etsy(米)
2005年に創設された手作り品の販売サイトです。元々は美術品や工芸品のオンライン店舗としてスタートしました。そして職人がオンラインプラットフォームで商品を販売できるような仕組みを作りました。売り手への収益、UIの大幅な変更、パーソナライズした広告などに力を入れ、2015年に上場しました。
【日本のDX成功事例】
・株式会社木幡計器製作所
1909年創業の老舗圧力計専業メーカーで、船舶向けの計器製造を強みとしていました。計器の納入までを行なっていた従来の事業から、計器に無線デバイスを搭載し、計測結果のデータ送信や遠隔監視を可能にし、納入先の人材不足や効率的な点検業務など、労力削減を実現しました。 2018年には経済産業省より「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選定され、近年はデジタル式圧力計の開発や呼吸筋力測定機器の開発により、医療機器メーカーへ参入しています。
・株式会社南部美人
日本酒製造の修行には長い年月を要し、経験を積んでいるプロによって行われる作業や判断が必要なため、人材確保が難しくなっていました。そこで実際に職人の「眼」を使用して行われる”浸漬”という、原料となる米を洗浄した後に水を吸わせる工程にAIの検証を導入しました。これにより、これまで人間の眼によって行われていた最適な吸水時間の観測を代わりにAIが測定し、自動的に通知することが可能となりました。また色や温度や米の様子など、様々なデータをディープラーニングによって学習、データを蓄積することも可能なため、今後さらにできることの幅が広がりそうです。AIが日本酒作りの補助的な役割を果たし、効率良く労力を削減し、持続可能な環境を作り上げています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の成功にはチームの協力が不可欠です。DX成功に必須の要素は以下の通りです。
・経営トップのリーダーシップ
DXを実現するためには、現在の経営・組織改革を行う必要があります。経営者はどのようなシステムを導入するのか、どのようなDXが現状の課題を解決するのか、DXへの投資に対する意思決定の役割も担うため、DXに強い経営陣を揃えることはDXの成功にも繋がります。
・DX人材の育成
デジタル技術に精通しており、その取り組みをリードしたり実行できるような人材が育つことで、社内システムの一貫性を保つことができたり、自社に合ったDXを推進することができます。社内人材で適した人材に座学やOJTを実施し、教育を行うことが成功につながります。
・DXのビジョンを共有
経営陣だけではなく社内チーム全体にDXによるメリットとビジョンを共有し、DXへのモチベーションを高めましょう。また部署ごとに専門的な知識を持つ人材の参加やアドバイスも成功への鍵となるため、どんな問題を解決したいのか、何が問題なのか、どのような技術の実現可能なのかしっかり話し合いましょう。
・少しずつ仮説検証しながら実行
いきなり大きな改革を行うのではなく、少しずつ検証しながら実行しましょう。DXは導入にあたりどしてもコストや労力が発生してしまいます。また、業務プロセスも大きく変更するため、出来るところから開始し、社内DX推進のビジョンを見失わないよう仮説検証を繰り返しながら、慎重に進めていく必要があります。
・レガシーシステムからの脱却
古いアナログなシステムを最新のデジタルシステムに換えることで、業務効率やシステム維持にかかるコストを大きく改善できる場合があります。レガシーシステムでは複雑なデータやAIなどは扱えず、競合に遅れをとってしまい、ビジネスとして成り立たる可能性もあるため、積極的に新しいシステムに目を向けることも重要です。
・潜在ニーズの発掘
DX推進は、顧客ニーズを多様化させたり新たな価値を提供することが可能です。そのため既存ビジネスモデルを見直し、新たに戦略を練り、新たな潜在ニーズを発掘することでDX推進による成功を実現することができます。
DXは、急速に変化する現代のビジネスと社会の中で、業務効率化や新しいアイデア創出によるビジネスの利益生産、業務フロー改革、利便性の改革など、非常に多くのメリットがあり、人間の手だけでは限界のあることも解決してくれる可能性があります。
DXの取り組みにおいて、経営陣が理解するだけでなく社員全員が「DX」という言葉の意味をしっかりと理解し、企業全体でDXを意識した戦略・取り組みを展開していくことが重要です。
JIITAKではストラテジー・デザイン・エンジニアリングの各デジタル分野の専門チームでビジネスモデルを変容し、新たな価値創造に挑戦する企業のDXを支援しています。もしご興味がございましたら、ぜひ一度JIITAKまでご連絡ください!